名作と言われているけれど、意味が分からなくて何度読み直した作品、ありませんか?
『くるみ割り人形とねずみの王様』は、私が小学校5年生の頃にハマってしまった物語でした。何度も読むうちに、登場人物のある仕草が、気にかかって仕方がなくなりました。
ある仕草の謎は、登場人物のドロッセルマイヤー青年が「改造人間」になることによって、さらに深まります。
呪いのかかったピルリパット姫を助け出す際にどんな硬いクルミも割れるように、「改造」を受けます。あれあれ?そもそもドロッセルマイヤー青年は、どんな硬いクルミも割れるという人物設定になっているはずなのですが。
このあたりの疑問を共有したいと思います。
物語中に、大勢のドロッセルマイヤーさんたちが登場するので、書きとめておきます。
現実の中の登場人物
A:主人公マリーの名付け親のドロッセルマイヤー叔父さん(ホフマン自身)
B:Aの甥っ子で、ニュルンベルクに住むドロッセルマイヤー青年(くるみをかみ割るのが得意)
空想?の中の登場人物
C:宮廷に仕えるニュルンベルク時計職人のクリスチャン・エリアス・ドロッセルマイヤー
D:ニュルンベルクに住む、Cの年下のいとこで人形職人のクリストフ・ツァハリアス・ドロッセルマイヤー
E:人形職人Dの息子ドロッセルマイヤー青年(くるみをかみ割るのが得意)
ここから要約に入ります
宮廷に使えていた時計職人ドロッセルマイヤーCと天文学者の2人は、世界一固い「クラカトゥクのくるみ」と、それをかみ割ることのできる人物を探すため、お城を放り出されました。
世界中を旅したが見つからない。
2人は落胆したまま、Cのいとこである人形職人のドロッセルマイヤーDが住む、ニュルンベルクにたどり着きます。
なんと人形職人Dは「クラカトゥクのくるみ」を数年前に手に入れて、大事に持っていました。
しかも、人形職人Dの息子のドロッセルマイヤー青年Eは、どんな固いクルミもかみ割ることが自慢!
人形職人Dは、息子Eが「王子さま」になれると聞いて、飛び上がってよろこびますが・・・。
ただし、Eを宮殿に連れて行く前に、「改造」しなくてはなりません。
ドイツのホフマン協会というところに手紙を書いたところ、ドイツ語の原著をおくってくれました。

その中から、エグい部分を抜き出してみます。
まずは、夢の世界の登場人物による、改造計画です。三つ編みにこだわってみます。
Fürs erste müssen Sie Ihrem vortrefflichen Neffen einen robusten hölzernen Zopf flechten,
まず最初に、丈夫な木でできた三つ編みを君の甥っ子のために作らなくちゃいけない、
der mit dem untern Kinnbacken so in Verbindung steht,
それを彼の下あごのほっぺたの骨にうまいことつなげて、
daß dieser dadurch stark angezogen werden kann;
強く引き付ける事ができるように;
次に、夢の世界のドロッセルマイヤー青年Eが、呪いを解く儀式をするところです。
Nachdem der junge Droßelmeier den König und die Königin,
ドロッセルマイヤー青年は王様と女王様に続いて、
dann aber die Prinzessin Pirlipat, sehr höf- lich gegrüßt,
ピルリパット姫にも、うやうやしくおじぎをすると、
empfing er aus den Händen des Oberzeremonienmeisters die Nuß Krakatuk,
司会役からクラカトゥクのクルミを受け取り、
nahm Sie ohne weiteres zwischen die Zähne, zog stark den Zopf an,
ためらわずに歯の間にはさんで、三つ編みを強く引くと、
und Krak – Krak zerbröckelte die Schale in viele Stücke.
-カリカリッ-硬い殻はいくつもの破片に割れた。
最後に、物語の終わりに、現実の世界のドロッセルマイヤー青年Bがあらわれたところです。
Bei Tische knackte der Artige für die ganze Gesellschaft Nüsse auf,
食事がはじまると、この親切な若者は、みんなのためにクルミを割ってあげました
die härtesten widerstanden ihm nicht,
どんなに硬いクルミも彼には抵抗できません
mit der rechten Hand steckte er sie in den Mund,
右手でクルミを口の中に入れて、
mit der linken zog er den Zopf an – Krak – zerfiel die Nuß in Stücke!
彼は左手で三つ編みを引っ張ると-カリッ-クルミは砕けました。
挿絵として、呪いが解けたピルリパット姫と、逆に呪いのかかってしまったEのドロッセルマイヤー青年が描かれています。黄色の矢印が、丈夫な三つ編みです。

次の挿絵は、物語の最後に、ドロッセルマイヤー青年(ちっちゃい)が、マリーと2人きりで話すために、部屋の隅に誘うところです。黄色の矢印のところが、硬い三つ編みです。

この三つ編みのなぞについては、次の記事に続きます